2009年5月3日日曜日

私的サマリー:呼吸器系重症患者(09年5月)


私的サマリー:呼吸器系重症患者(09年5月)

~~栄養士としてできること~~
◎高脂質・低炭水化物の栄養剤は使わない。
◎アルジニンなど免疫系の入った栄養剤も試してみる(敗血症の時は注意)。でも長期使用への問題視、量や組成の問題などあるみたい。
◎食物繊維は使わない、または微量のものがベターかも(呼吸器系に限ったことではないが)。
◎カロリー投与は目標値の50%以上。でも70%以下くらいを目安に。
◎静脈・経腸栄養の両方で、グルコースの過剰投与に注意。
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・呼吸器系向けの栄養剤(pulmonary formula)は高脂質、低炭水化物であるが、その効果をサポートするエビデンスはない。2009年のASPEN会議でも、ICUでのpulmonary formulaは支持されていない(1,2)。

・2009年のASPEN会議では、major elective surgery, trauma, burns, heand and neck cancer, and critically ill patients on mechanical ventilation(ARDS:急性呼吸窮迫症候群 and ALI:急性肺障害とか)の患者に対して(severe sepsisの患者は注意しながら)、immune modulating(arginine, glutamine, nucleic acid, omega-3 fatty acids, and anti-oxidentsなど)の高濃度栄養剤(水分調整のため:いつも必要とは限らない)の使用、少なくとも50-60%の必要カロリー量の投与を勧めたようだ。

・一部のRDはICUでPaO2/FiO2 ratioの計算をしているようです。多くの論文等では <200はARDS、<300はALIらしい。でもPulmonogistsによって基準は違う。 ・栄養投与の目標は、十分なたんぱく質投与、栄養の過剰摂取避けて過剰二酸化炭素の生産を避ける(VENTをWEANする間)、そして高血糖を避けること(3)。

・呼吸不全(respiratory failure)の場合に一番大切なのは、過剰栄養投与を避けること。過剰投与は二酸化炭素を溜め込んでしまう。特に、高炭水化物の経腸栄養剤、デキストロースベースのTPNで重要。グルコースが酸化されるとエンドプロダクトは炭水化物と水なので。特に重症なARDSの患者はOxepaのようなスペシャリティー栄養剤を短期間使うと効果的かも。

・免疫アップを期待してICUで使われている栄養剤にarginineなどが含まれているものがあるが、過剰使用も懸念されているとのこと。量の問題、それとも種類の問題?!短期間ってのがポイントなのかな?!。これからのリサーチで解明が進むかな。まだまだ分からないことが沢山ですね。

・集中治療室での食物繊維投与は注意が必要。食物繊維はいつでも素晴らしいと思いがちだがいつもそうではない。重症患者の場合は、腸管内のperfusionが十分でないこともあるので、低食物繊維のフォーミュラを使うべき(クリティカルケアの市販フォーミュラは低食物繊維になっている場合がほとんどだけど、スペシャリティー栄養剤は値段が高い!)。

・ventilatorをweaning offするときは、isocaloric, standard polymeric formulaがいいって教科書には書いてあるよう(2)。2009年も同じかな?

・すかさずAbbottのrepさんなどが "recommendations for the use of oxepa"を配布している。。とクラスメートが話していました。body temp, heart rate, resp. rate, PaCo2, diagnosis, ALI/ARDS, PaO2/FiO2などなどのっているそうです。さすがです。今年のASPENのステートメントを受けて、免疫サポート系が入っている栄養剤は、これからもっとICUに入ってくるだろうし、クラスメートも使っている人が増えているようです(ちょっと前まではあんまり効果無いって言われていたような。毎年変わりますね)(4)。

1. Parrish, C. Nutrition Support for the Mechanically Ventilated Patient. Critical Care Nurse 2003;23:77-80.
2. ASPEN Nutrition Support Core Curriculum: A case based approach-The Adult Patient.
3. Jeejeebhoy, K. Permissive underfeeding in the critically ill. Nutrition in Clinical Practice 2204;19(5):477-480.
4. Pontes-Arruda A, DeMichele S, Seth A, Singer P. The use of an inflammation-modulating diet in patients with acute lung injury or acute respiratory distress syndrome: a meta-analysis of outcome data. Journal of Parenteral and Enteral Nutrition. Volume 32, Number 6. Nov-Dec 2008. pp 596-605

こんにちわ。 (コイン)
2009-09-23 09:52:12
以前、担当した糖尿病患者さんでCOPDを発症した際、PaO2/FiO2から結果を算出し、>200torrだと糖質↓脂肪↑が良いですよ。とアメリカから帰国したRDの方に教えていただきました。

その時は言われた通りやって、患者さんは回復し、血糖コントロールも良好状態でした。

しかし、自分自身の解釈が追い付かず、言われるがままの栄養管理だったので、PaO2/FiO2 ratioの深い意味がよくわかりません。
PaO2→動脈血酸素分圧、FiO2→吸入気酸素分画room airで20%までは理解したのですが、�FiO2は酸素マスクをしていればどう解釈したらよいのでしょうか?�またPaO2/FiO2の代謝メカニズムが知りたいのですが、なかなか栄養と絡めた文献や参考書がありません。

以上2点教えていただけないでしょうか?
よろしくお願いいたします。
コインさんへ。 (あき)
2009-09-30 06:16:36
人工呼吸器等における、PaO2、FIO2についてですが、私も分りません。総合的に理解するのはとても難しいと思います。全く別の専門分野なので、ICUには呼吸器系のスペシャリストがいると思います。質問は私ではなく、その人たちにされたほうがいいと思います。ひとまず、日本のウィキペディアはいかがでしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%82%AC%E3%82%B9%E5%88%86%E6%9E%90

ただ、これらの検査値(AGB's)は、こういった患者さんではよくチェック(多分毎日)されていると思うので、それ自体の内容を知っておくのはいいかも知れません。

AGB'sについて
http://en.wikipedia.org/wiki/Arterial_blood_gas

Acute Respiratory Failure (ARF)、Adult Respiratory Distress Syndrome (ARDS)の違いを理解し、その際にどういった栄養サポートが適切かどうか…というのが私たちの仕事だと思います。

あと、PaO2・FiO2と直接からめた文献は確かに少ないかもしれません。ただ、栄養士に必要なARF、ARDS等の文献はかなり出ています。

>以前、担当した糖尿病患者さんでCOPDを発症した際、PaO2/FiO2から結果を算出し、>200torrだと糖質↓脂肪↑が良いですよ。とアメリカから帰国したRDの方に教えていただきました。
ですが、

この患者さんは人工呼吸器を使用されていたのでしょうか?今現時点では、COPD患者さんへの高脂肪栄養剤の使用は指示されていません。鎮痛剤の脂質量が多いため、逆に低脂肪栄養剤が必要なことさえあるかと思います。現時点では、とにかく総カロリーの過剰投与、炭水化物の過剰投与を避けることがとても大切だとされています。
高脂肪、高炭水化物の栄養剤ですが、アメリカでも少し前までは使われました(病院によっては多分3~4年くらい前まで)。RDでも、それ以降に現場にいない人、大学で学んだ知識をもとにしているRDなどには、十分に知られていないかもしれません

2009年5月2日土曜日

エネルギー量の求め方


◎ハリスベネディクトは、使うべきではないことが既に分かっており、RDは使わなくなりました。健康な人にもダメ、病気の人にもダメ、怪我の人にもダメです。臨床栄養士でハリスベネディクトを使っている人がいれば止めよう!



★ADA Evidence-Based Guidelines for Determination of Resting Metabolic Rate

Indirect Calorimetry (Rating- Grade I: strong)
やっぱりゴールドスタンダードは。でも現場では難しい。

肥満ではない重症患者の場合 (Rating- Grade II: fair)
Penn State, 2003a (正確率-79%)
Swinamer (55%)
Ireton-Jones (52%)

重症患者では60~70%の推定エネルギーの投与がいいようです。
60-70%のEN(経腸栄養)を48時間以内に開始するのが望ましい(Rating- Grade II: fair)
70%以上の必要エネルギーを外科系肥満患者に投与するとネガティブのアウトカム(Rating- Grade III: limited)

重症患者に使うべきでない(Rating- Grade I: strong)
Harris Benedict (with or without activity and stress factors)
Ireton-Jones, 1997
Fick equation

肥満患者への使用(Rating- Grade II: fair)
Ireton-Jones, 1992
Penn State, 1998

★Hise et al. 2007
>81% of goal kcal→入院 47 days
<81% of goal kcal→入院 22 days Hise et al. 2007:Medical ICU patients
<82% of goal kcal, ICU LOS was 12 days82% of goal kcal, ICU LOS was 25 days
If <84% goal kcal, hospital LOS was 26 days
Hise et al. 2007:Surgical ICU patients
Surgical ICU patients
<67% of goal kcal, ICU LOS was 10 days67% of goal kcal, ICU LOS was 23 days
If <71% goal kcal, hospital LOS was 20 days

◎肥満患者&気管挿管&栄養管理◎
プレゼンの一つは、集中治療室における肥満&COPD&気管挿管患者の栄養管理についてでした。多くのクラスメートは症例の発表と文献のリサーチをまとめたスタイルでプレゼンしています。

肥満&COPD&気管挿管患者の栄養管理には、私もいつも悩まされています。私や他のRDが頭をかかえる肥満とは200キロくらいの患者さんです。日本では少ないかもしれませんが、アメリカではよくみるケースです。普通に1キロ当たり20カロリーなんてやると、総カロリーが4000カロリーなどになって大変なことになります。過剰な栄養投与は二酸化炭素の生産を増やし、気管挿管を長引かせると考えられています。以前は脂質が多い栄養剤ならいいなど言われていましたが、トータルのカロリーが多いのがまずいようです。

まとめとしては、重症患者には栄養投与をプッシュしすぎないのがいいようです。おおざっぱには7割未満程度の投与がいいようです。まあ、ICUでは、よくチューブ栄養が様々な医療処置のためにホールドされるので、よっぽとプッシュしなければ、自然に7割程度の投与になるかもしれません。ただ、RDによってはこのホールドを見越して、意図的に過剰なエネルギー量を推奨する人もいるようなので要注意。
あきさん、こんにちわ (ひみつ)
2009-05-09 08:25:10
いつも勉強になります。ありがとうございます。
日本では消費エネルギーの推定は、猫も杓子も「ハリスベネディクトの式×ロングの方法」を使用している状況です。日本人は真面目(?)で、何に関しても、「コレと信じたらコレ一筋」という傾向があるようで・・。だから重症患者さんほどとんでもない数値が出ます。

最近は著名な先生方が過剰エネルギー投与の害を訴えておられますが、その声はまだ広まっていません。
経腸栄養で過剰投与、というのは見かけませんが、TPNだと小柄な患者さんに濃い~グルコースが投与されているのを見かけるのもしばしばです。
頑張らないと!
ひみつさんへ (あき)
2009-05-09 14:39:39
グルコースの過剰投与は危険ですね…。高血糖などによる合併症や、肝臓のダメージが心配です。少し前に、とある妊婦さんのブログで、妊娠悪阻で入院し、点滴(多分PNのこと)を受けていたら、それが原因で肝臓がやられてしまったと書かれているのを見ました。こちらでは必ずGER(Glucose Infusion Rate)の計算をしますが、日本ではやらないのでしょうか?

この183キロの患者さんは、Penn State Equationを使っても推定必要カロリーは約2900カロリー(15kcal/kg)ですが、実際の平均投与量は1800カロリーだったようです(計算結果の6割弱)。クラスメートもLaura先生も控えカロリー投与(hypocaloric feeding とか permissive underfeedingと呼ばれてます)には同意していました。Laura先生がRDになった頃は、この患者さんには3000カロリーをプッシュして投与していただろうとのことでしたが、「Now we know that this is dangerous」とコメントされていました。日本でもエビデンスベースの栄養管理が注目されてきているようですが、みんなどこからエビデンスをゲットしているのでしょうね。みんなで変えていかないといけませんね!
ちょっと訂正 (あき)
2009-05-09 14:40:49
GERじゃなくてGIRです…。